ページ

2012/01/18

岩田 規久男 「デフレと超円高」

いわゆる構造デフレ論を次々と論破していく章はなかなか痛快。冷静に考えれば、OECDだけを見ても継続的なデフレなのは日本だけなのだから、「○○だからデフレ」の○○は、よく探せば他の国のどれかにもあてはまっているのだ。

たとえば、白川日銀総裁は、日本の生産性の低さが今の不況の原因だと断言するが、日本はOECD各国の中では生産性では中ぐらいだ。しかし、日本以外はデフレではないのである。
では、この円高の原因は何かというと、デフレによる実質的な高金利状態の日本と、緩和政策による低金利のアメリカの金利差の変化の方向による。これをデータをもとに論証している。

したがって、デフレを解消してインフレにしない限りこの円高による不況は解消できないことになる。このためには(法律の改正などを行い)インフレターゲットを採用するべき。

インフレターゲット政策を採用すると1000%というようなハイパーンフレになるのでは、という議論に対しては、ハイパーになるはるか手前でターゲット範囲からはずれるので緩和を止めればよく、対策が可能である、と明確に否定。
インフレターゲット政策を成功させるための最大のポイントは、金融政策に対する信頼性である。緩和すると言いながら政策を放棄したり方向転換すると、市場の信頼がなくなり、政策の効果も消えるという。この点では日本銀行は落第であり、この信頼を回復するためには日銀法の改正も含めた政策的な対応が必要だ、ということになる。

この20年ぐらいの日本の財政金融政策の失敗は、経済の成長を失っただけではなくロスジェネ世代以降の人生そのものをかなり破壊してしまった、と思う。その意味で、岩田教授の主張のような一貫した緩和政策が喫緊の政策課題だと思う。

インフレターゲット政策のポイントが信頼感である、というのは、技術的に数値を維持すればいい、というものではないだけに日頃の日銀や大臣たちの行動・言動も重要な要素となる、ということである。この政策を採用するとすれば日銀総裁や財務大臣などは今より厳しい仕事になるだろう。
たとえば、2012年1月時点の財務大臣は、民主党の国会対策で名を挙げた安住大臣である。このような人選では到底つとまらないのではないだろうか。日銀総裁の白川氏は日銀では緩和政策の収束のタイミングを誤ったという実績があるのでこちらも無理だということになるだろう。


(メモ:2012年1月16日、野田総理大臣は党大会で消費税増税に向けて党の結束をよびかけた、という。マニフェストはいったいなんだったのか、というか、マニフェストからはずれたと他人を批判しつつ政権を取ったんじゃなかったけ、この党は。)