いわゆる構造デフレ論を次々と論破していく章はなかなか痛快。冷静に考えれば、OECDだけを見ても継続的なデフレなのは日本だけなのだから、「○○だからデフレ」の○○は、よく探せば他の国のどれかにもあてはまっているのだ。
たとえば、白川日銀総裁は、日本の生産性の低さが今の不況の原因だと断言するが、日本はOECD各国の中では生産性では中ぐらいだ。しかし、日本以外はデフレではないのである。
では、この円高の原因は何かというと、デフレによる実質的な高金利状態の日本と、緩和政策による低金利のアメリカの金利差の変化の方向による。これをデータをもとに論証している。
したがって、デフレを解消してインフレにしない限りこの円高による不況は解消できないことになる。このためには(法律の改正などを行い)インフレターゲットを採用するべき。
インフレターゲット政策を採用すると1000%というようなハイパーンフレになるのでは、という議論に対しては、ハイパーになるはるか手前でターゲット範囲からはずれるので緩和を止めればよく、対策が可能である、と明確に否定。
インフレターゲット政策を成功させるための最大のポイントは、金融政策に対する信頼性である。緩和すると言いながら政策を放棄したり方向転換すると、市場の信頼がなくなり、政策の効果も消えるという。この点では日本銀行は落第であり、この信頼を回復するためには日銀法の改正も含めた政策的な対応が必要だ、ということになる。
この20年ぐらいの日本の財政金融政策の失敗は、経済の成長を失っただけではなくロスジェネ世代以降の人生そのものをかなり破壊してしまった、と思う。その意味で、岩田教授の主張のような一貫した緩和政策が喫緊の政策課題だと思う。
インフレターゲット政策のポイントが信頼感である、というのは、技術的に数値を維持すればいい、というものではないだけに日頃の日銀や大臣たちの行動・言動も重要な要素となる、ということである。この政策を採用するとすれば日銀総裁や財務大臣などは今より厳しい仕事になるだろう。
たとえば、2012年1月時点の財務大臣は、民主党の国会対策で名を挙げた安住大臣である。このような人選では到底つとまらないのではないだろうか。日銀総裁の白川氏は日銀では緩和政策の収束のタイミングを誤ったという実績があるのでこちらも無理だということになるだろう。
(メモ:2012年1月16日、野田総理大臣は党大会で消費税増税に向けて党の結束をよびかけた、という。マニフェストはいったいなんだったのか、というか、マニフェストからはずれたと他人を批判しつつ政権を取ったんじゃなかったけ、この党は。)
あんだんど -- andando (以前は「モータースポーツ ときどき 日常」というタイトルでした) エントリー内リンクはアフィリエイト(amazon、linkshareなど)になっているものもあります。商品モニターは報酬の有無にかかわらずできるだけ明記しています。 また、これらのリンク経由で購買などをされた方には感謝申し上げます。
2012/01/18
2009/01/07
岩田規久男「景気ってなんだろう」
「リーマンショック」以降、本屋はアメリカ資本主義の問題点を検討する本が並んだが、そちら方面よりはなぜ景気が悪くなるのだろう?ということが知りたくて、たまたま山形浩生があるメルマガで推薦していたこの本を購入した。
専門用語があまり出てこないし議論を簡単にするため適切な省略がなされいて素人には助かる。たとえば、国内総生産については
景気が良い、とは、「売買が活発で、企業はもうかり、働く人の所得も増える、という経済状況」である。
景気の状況判断に上記の国内総生産(GDP)を使うのだが、この成長率(というか増加率)が、高度経済成長のころは平均で9%だったものが、「失われた10年」のころは1.3%、2002年から07年(景気拡張期間)ではわずか1.8%だった。
「景気が良い」と政府が言っていた割りには「失われた10年」と0.5%しか変わらなかったのなら実感がなくて当たり前だ。
ここ数年の「景気拡張」では企業の売上高経常利益率は順調に伸びたが、一方で実質賃金は下がっている時期がある。それまでの景気拡張では両者はほぼ同じように変化していたので、「今までとは違う」感じだったわけだ。その理由としては2つがあげられている。
本書の最後では、景気を安定させる政策として、インフレターゲット政策が効くのかどうかをデータによって検討し、インフレターゲット政策を取っている国の経済が、そうした政策を取っていない国の経済(あるいは、それ以前の同じ国の経済)と比較して成長している、ことをデータにより示している。
景気浮揚策としての公共事業の効果が初年度が1.1から1.2、次年度以降はそれより低下するらしい。設備投資は条件がよければ、二倍から三倍の効果があることも紹介されている。ということから考えると公共事業の縮小は理屈から言えば正しい、ということになるが、問題は公共事業の代わりとなる(国内で設備投資したくなるような)政策がなかった、ということなんだろう。
ちくまプリマー新書なので、想定した読者は高校生や大学1,2年だと思うが、このレベルの理解が社会全体に行きわたっていればなあ、と思わなくもない。
アメリカの不景気が日本に影響があるかどうかも検討していて、結論からいうと、アメリカの直接の影響ばかりではなく、アメリカの不景気の影響でアジア各国が不景気になることの影響も受けるので、日本の景気も悪くなるだろうと予想している。
インフレターゲット政策の実証的な議論がここで書いてあるとおりなのであれば、経済成長を維持できており、このデータを見る限り「やってみてもよさそうな」政策に思える。日銀はそのような制約にとらわれずに、その時々の経済状況に応じて金融政策を運営する方が良い、という意見らしい。本書では特定の政策の正当性を主張してはいないが、実績では「リフレ」派が優勢ということだ。
専門用語があまり出てこないし議論を簡単にするため適切な省略がなされいて素人には助かる。たとえば、国内総生産については
国内総生産とは何かをきちんと説明することは簡単ではなく、大変、時間がかかります。そこで、不正確ですが、ここでは、とりあえず、国内で生産されたもの(厳密には、最終的に生産されたものです)の合計と考えておいてください。と簡略化されている。が、翻って考えると「マスコミ」のレベルでは上記の簡略化されたものが正しいものとして扱われていることに気がつく。
景気が良い、とは、「売買が活発で、企業はもうかり、働く人の所得も増える、という経済状況」である。
景気の状況判断に上記の国内総生産(GDP)を使うのだが、この成長率(というか増加率)が、高度経済成長のころは平均で9%だったものが、「失われた10年」のころは1.3%、2002年から07年(景気拡張期間)ではわずか1.8%だった。
「景気が良い」と政府が言っていた割りには「失われた10年」と0.5%しか変わらなかったのなら実感がなくて当たり前だ。
ここ数年の「景気拡張」では企業の売上高経常利益率は順調に伸びたが、一方で実質賃金は下がっている時期がある。それまでの景気拡張では両者はほぼ同じように変化していたので、「今までとは違う」感じだったわけだ。その理由としては2つがあげられている。
- 今回の景気回復は海外の売上高の恩恵を受けた製造業が中心。これらの企業は対外直接投資(海外工場や買収)と設備投資を行うが、海外とのコスト競争が厳しく賃金を上げることができていない。
- 企業が人件費抑制の手段として非正規社員を増やす戦略を取っているため、熟練度の低い労働者の賃金が抑制されている。
本書の最後では、景気を安定させる政策として、インフレターゲット政策が効くのかどうかをデータによって検討し、インフレターゲット政策を取っている国の経済が、そうした政策を取っていない国の経済(あるいは、それ以前の同じ国の経済)と比較して成長している、ことをデータにより示している。
景気浮揚策としての公共事業の効果が初年度が1.1から1.2、次年度以降はそれより低下するらしい。設備投資は条件がよければ、二倍から三倍の効果があることも紹介されている。ということから考えると公共事業の縮小は理屈から言えば正しい、ということになるが、問題は公共事業の代わりとなる(国内で設備投資したくなるような)政策がなかった、ということなんだろう。
ちくまプリマー新書なので、想定した読者は高校生や大学1,2年だと思うが、このレベルの理解が社会全体に行きわたっていればなあ、と思わなくもない。
アメリカの不景気が日本に影響があるかどうかも検討していて、結論からいうと、アメリカの直接の影響ばかりではなく、アメリカの不景気の影響でアジア各国が不景気になることの影響も受けるので、日本の景気も悪くなるだろうと予想している。
インフレターゲット政策の実証的な議論がここで書いてあるとおりなのであれば、経済成長を維持できており、このデータを見る限り「やってみてもよさそうな」政策に思える。日銀はそのような制約にとらわれずに、その時々の経済状況に応じて金融政策を運営する方が良い、という意見らしい。本書では特定の政策の正当性を主張してはいないが、実績では「リフレ」派が優勢ということだ。
登録:
投稿 (Atom)