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2009/01/07

岩田規久男「景気ってなんだろう」

「リーマンショック」以降、本屋はアメリカ資本主義の問題点を検討する本が並んだが、そちら方面よりはなぜ景気が悪くなるのだろう?ということが知りたくて、たまたま山形浩生があるメルマガで推薦していたこの本を購入した。

専門用語があまり出てこないし議論を簡単にするため適切な省略がなされいて素人には助かる。たとえば、国内総生産については
国内総生産とは何かをきちんと説明することは簡単ではなく、大変、時間がかかります。そこで、不正確ですが、ここでは、とりあえず、国内で生産されたもの(厳密には、最終的に生産されたものです)の合計と考えておいてください。
と簡略化されている。が、翻って考えると「マスコミ」のレベルでは上記の簡略化されたものが正しいものとして扱われていることに気がつく。

景気が良い、とは、「売買が活発で、企業はもうかり、働く人の所得も増える、という経済状況」である。
景気の状況判断に上記の国内総生産(GDP)を使うのだが、この成長率(というか増加率)が、高度経済成長のころは平均で9%だったものが、「失われた10年」のころは1.3%、2002年から07年(景気拡張期間)ではわずか1.8%だった。
「景気が良い」と政府が言っていた割りには「失われた10年」と0.5%しか変わらなかったのなら実感がなくて当たり前だ。

ここ数年の「景気拡張」では企業の売上高経常利益率は順調に伸びたが、一方で実質賃金は下がっている時期がある。それまでの景気拡張では両者はほぼ同じように変化していたので、「今までとは違う」感じだったわけだ。その理由としては2つがあげられている。
  1. 今回の景気回復は海外の売上高の恩恵を受けた製造業が中心。これらの企業は対外直接投資(海外工場や買収)と設備投資を行うが、海外とのコスト競争が厳しく賃金を上げることができていない。
  2. 企業が人件費抑制の手段として非正規社員を増やす戦略を取っているため、熟練度の低い労働者の賃金が抑制されている。
企業勤務の身だとこの流れが加速されているのを感じる。非正規かどうかが問題であるのももちろんだが、経済成長がこの程度だと非正規社員の契約が不安定になるため、社会全体に悪影響があることが問題なのだ。

本書の最後では、景気を安定させる政策として、インフレターゲット政策が効くのかどうかをデータによって検討し、インフレターゲット政策を取っている国の経済が、そうした政策を取っていない国の経済(あるいは、それ以前の同じ国の経済)と比較して成長している、ことをデータにより示している。

景気浮揚策としての公共事業の効果が初年度が1.1から1.2、次年度以降はそれより低下するらしい。設備投資は条件がよければ、二倍から三倍の効果があることも紹介されている。ということから考えると公共事業の縮小は理屈から言えば正しい、ということになるが、問題は公共事業の代わりとなる(国内で設備投資したくなるような)政策がなかった、ということなんだろう。

ちくまプリマー新書なので、想定した読者は高校生や大学1,2年だと思うが、このレベルの理解が社会全体に行きわたっていればなあ、と思わなくもない。

アメリカの不景気が日本に影響があるかどうかも検討していて、結論からいうと、アメリカの直接の影響ばかりではなく、アメリカの不景気の影響でアジア各国が不景気になることの影響も受けるので、日本の景気も悪くなるだろうと予想している。

インフレターゲット政策の実証的な議論がここで書いてあるとおりなのであれば、経済成長を維持できており、このデータを見る限り「やってみてもよさそうな」政策に思える。日銀はそのような制約にとらわれずに、その時々の経済状況に応じて金融政策を運営する方が良い、という意見らしい。本書では特定の政策の正当性を主張してはいないが、実績では「リフレ」派が優勢ということだ。


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