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2009/01/10

飯田泰之 「ダメな議論 -- 論理思考で見抜く」

「おわりに」で著者はこの本を書いた動機について次のように説明している。
私にとって(おそらく相手にとっても)何の利益も生むことがなかった論争もあります。得るところの多い論争が共通して持っていた性質が、本書でもくりかえし登場した分析的思考の諸条件です。一方、得るところのない批判の多くは、その条件を満たしていませんでした。

議論を見分ける機械的な手法としてこれらの条件を応用することで、経済学の基本をマスターする時間はないが明らかに誤った議論に誘い込まれない方法論を提示している。

4章「現代日本のダメな議論」、5章「怪しい大停滞論争」で、具体的にダメな議論を練習問題的に検討している。その対象となる文のほとんどが「どこかで見たような」言説になっている。たとえば、「現代の若者には夢がないから、ニートになるのだ」と言った(ちょっと乱暴な要約だが)議論である。これに対して「夢」の定義を不明確なままにして議論を進めることで、「反証不可能(合っているかどうかわからない)な議論」になり、結果として水かけ論になってしまう。

著者の専門である経済学で「大停滞」 に関しての「バブル悪玉論」や「国際競争力がなくなった」などの「あるグループの人々の「心に沿う」」議論がある。典型的な例文はそれぞれ欠陥をもつ文章なのだが、それぞれに「なんとなく納得できる」部分がある。それぞれの「ダメの元」をこの手法で切り出していくというところが「実用的」だ。

「日本が世界一の物価高と言った議論は実は間違い」だとか「GDPの輸出依存度は10%程度(さきほど調べてみたら16%になっていた)」など、多くの人がなぜか「常識」と感じている間違いについても指摘を行い、実際はどうなのかデータに基づいた実証的な議論を行っている。この部分は著者の理想とする理論の一実践として読める。

本書に従って考えると、たとえば、「不況の今こそ本物の理論に基づいた政策が望まれます」という文は何か意味のあることを言っているに思えるが、「本物」の経済理論とは何か、という点に関して全くあいまい(チェックポイント1 定義の誤解・失敗はないか)であるし、どういう政策なのかもぼかしている(チェックポイント2 無内容または反証不可能な言説)ので、議論としてはダメなのだ。しかし、いかにこのレベルの議論が多いことか。

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