ページ

2012/08/06

岡田 尊司 「統合失調症」

以前に読んだ笠原 嘉の「精神病」と比較すると薬や治療に関して新しい情報が多いのと、いかに支えるかについて詳しく書かれているという印象だ。



この本の特徴は、治療方法の最新情報を説明するとともに、患者の予後についての部分を詳細に記述していることにある。

たとえば、先進国の社会が患者をなかなか受け入れられないために予後が良くないのに対して、妄想などの症状がある患者を「神に近い」ものとして受け入れ、急性症状を呪いのようなものと考えて家族がそれを受け入れるよう促すことで予後が良くなる、という話。

有名人に愛されているという娘に「ママにはわからないけれど、そんなふうに感じられるのはとても楽しいことじゃない」「あなたがそう感じているのなら、それはそれで素敵なことだと思うわ」といった言い方をするようになった母親(当初は「そんなはずないじゃない」と否定していた)によって幻想が色あせていった例などは、この本の運び方がうまいせいか、とても納得できる。

常識的に理解することが難しい病気だから最新の治療方法により解決できるという強い望みが患者の周辺にはある。しかし、周囲に必要なのは患者の状態をそのものとして受け入れ否定的にならないことと、服薬を続けられるような環境づくり、さらに社会がそれを受け入れられるための理解を進めることなど、だ。

本の最初に出てくるブロイラーの病院での回復率が非常に高かった事例は後半でも繰り返され、患者の環境をある程度コントロールして過ごしやすくすることが必要であると強調される。ここで問題なのは、日本の閉塞した経済状況である。スイスの失業率が非常に低いことが発症率の低さに影響しているというのが本当ならば、今の日本では発症率が徐々に上昇するし、かつ、社会復帰も困難だろう。同様に家族の方にも受け入れる余裕はなくなっているだろう。社会もまた同様だ。

経済で解決できる問題を経済で解決していないことで、間接的にいろんな人を困らせている。

0 件のコメント:

コメントを投稿