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2008/04/04

小寺信良、津田大介「コンテンツ・フューチャー」

小寺信良、津田大介著「コンテンツ・フューチャー」 ~~ポストYouTube時代のクリエイティビティ~~
二人の著者が現在の通信や放送、コンテンツ領域で話を聞きたい人たちを訪ねてインタビューし、それをまとめたもの。二人で話を聞いているのが良い効果を生んでいる。一人だと切り口が決まってきてしまうが二人いることにより、ワンパターンな質問で飽きが来てインタビュー自体のノリが悪くなるのを防げた。

合計9人のインタビュー。土屋敏男(第2日本テレビ)、草場大輔(東京MXテレビ)西谷清(ソニー)、長谷川裕(TBSラジオ)椎名和夫(音楽家)、遠藤靖幸(価格コム)、江渡浩一郎(産総研)、中村伊知哉(慶応大学)、松岡正剛(編集工学者)。

どの人も面白い話をしているのだが、読んでいてわからなかったのは江渡氏と松岡氏。二人とも独自の世界を作り上げていて対談は成立しているのだが言っていることがわからなかった。

総じて、コンテンツ関連の人の話は面白く、ラジオのディレクターであるTBSの長谷川氏はラジオそのものはなくなるかもしれない(しかしコンテンツはなくならない)と考えていたりするし、MXテレビの草場氏は「ネットがテレビを救っている」と言う。

逆に意外と面白かったのは中村氏。通信行政にかかわった立場から、今の行政や法体系を大きく変更したらどうかと提案している。実際に総務省内の通信・放送行政タスクフォースで議論しているらしい。ただ、発言を聞いていると日本でここまでの変更が可能なのかと思う。たとえば
中村 はじめの一歩としては、コンテンツはコンテンツでちゃんと国の意思が決められるような組織や法体系を設計することだと思います。通信であろうが放送であろうがコンテンツ側から見たら区別がないでしょ。もうあんまり規制する必要はないんです。今の放送法みたいに、放送だったら何でも網をかけるようなことはしないで、ごく一般的な「緩いルール」があるようにする。その上でチェックしなきゃいけないことはチェックすると。(略)ただし、「著作権」についてはたぶん新しいルールを作って整合性を取らなきゃいけない。役所が違ったら結局バラバラになっちゃうから、一度壊して再度作るということをやる時期に来てると思います。

というような再構築を提案しているからだ。つまり既存の役所の抵抗がある程度予想される方向なので今の政治状況でできるかどうか。今考えられることが正解ではないかもしれないが、技術の変化が速い時期だから、こういう試行錯誤を繰り返しながら暫定合意を取りつつ現状に対応していくしかないのだろう。「暫定了解・暫定合意の10年」に入ったと中村氏は言っている。

この本はクリエイティブコモンズで、「表示ー非営利ー改変禁止」条件で複製が可能である。つまり本をコピーしてもいい、ということだ。だから、これを学校などで資料としてコピー配布することを認めている。公開当時はこの規定の利用のデモンストレーション的にPDF化した人がいたのだが、OCRを使ったためか誤植が多くなっており、あまりインターネット経由のユーザには便利ではなかったことを覚えている。

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