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2011/12/08

高橋洋一 「この金融政策が日本経済を救う」

2011年3月11日の東日本大震災の復興に伴う公共事業の増加などで景気が(少なくとも1年ぐらいの間は)上向くだろう、という論調が大震災後の不況脱出に関してよく聞く。
しかし、この本を読んでいると、変動相場制の下での公共投資は効かないらしい。理由は

赤字国債発行による公共投資→長期金利の上昇→円高→輸出減少・輸入増加

となって、効果が海外に流出してしまうから(マンデル・フレミング効果)、である。
この公共投資の効果を生かすには、金融政策を緩和することで金利を下げ円高圧力を打ち消すこと。であるがこの本で一貫して批判されているように日銀は金融緩和はできるだけやりたくない、という政策理念があるので金融政策には期待できない。

為替が二国間の金利差の動きや物価によって決まることから、物価を考慮した金利ではデフレの日本の金利が高く、名目金利も下がっていないので金利差が広がるため、円高圧力が続く。
輸出が83兆、輸入が73兆円という構造が急に変わらないとすれば、円高は企業にマイナスとなり、経済にとってもマイナス。

100年に一度というような規模の危機では、流動性供給、資本注入、金融緩和をするべきだが、金融緩和だけができていないことで外国に比べてマイナス成長になってしまった。

著者の主張する日本経済を改善する政策は、25兆円の量的緩和と、25兆円の政府通貨発行による金融・財政政策のフル稼働。

2008年に出版された本で書かれた問題点が今(2011年)でも解消されていない、というところが財政・金融政策の(民主党による)失敗の証明となっているのは非常に残念というほかない。

大震災以前から悪かった景気は円高で一層悪化している。この円高を止めるのは金利差の変化が日本の金利が下がる方向になる必要がある。しかし、民主党では「金利を上げて景気改善」という主張をしている議員も多いという。金利を上げて金利利得を増やして消費を拡大せよということだそうである。

資金を借りようとする人ともっている人とでは、借りようとする人は借りてまで何かをしようとする人であり、経済に対するパワーは資金をもっている人より大きいはずです。
ですから、金利を下げれば景気が上向くし、金利を上げれば景気が悪くなるわけです。
これは高校の教科書レベルの常識です。
先ほどの民主党の有力幹部に、「そうした常識もないのか」と指摘すると、預金金利だけ引き上げて、貸出金利は据え置くといいます。いつから日本は金利を規制する社会主義国家になったのでしょうか。
正直、こんな基本的なことがわからないようでは、民主党の政権担当能力はかなり危ういと思います。

経済学を知らない人に対しての理論を簡単に説明しながら政策を検討する本なので、通貨発行益(シニョレッジ)とは何かがこの本で初めて理解できた。

公共投資が効かないと言われると意外な気がする。これは、「ニューディール政策でルーズベルトはダムを作るなど大規模な公共投資で人を雇ってお金を使い経済を立て直した。これがケインズ政策だ。」という刷り込みがあるからではないだろうか。中学校ぐらいからこの話は何度か授業で聞いている話だから。その結果、「不況では金融政策は効かない。財政政策を大胆にやるしかない。」との思い込みが形成されている。

ところが、高橋氏によると、これは日本人の素朴すぎる誤解らしい。ルーズベルトの政策の中心は、実は金融政策だった。これは、当時の金本位制から事実上離脱することを中心としたものと、価格上昇(インフレにする)政策だったとのことだ。金本位制だと金の量だけしか貨幣が発行できないので今の日本のように(日本銀行が発行しないからだが)貨幣が少なくてデフレ的になる。

バーナンキ(現FRB議長)などの研究では、金本位制から離脱できた国は早期に不況から回復でき、居残った国の回復は遅れたということが実証されているそうだ。