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2009/02/11

大山典宏 「生活保護 vs ワーキングプア 若者に広がる貧困」

著者はウェブサイト生活保護110番の創設者であり、福祉事務所のケースワーカーの経験を持つ公務員である。このウェブサイトに相談を寄せる相談者の年齢・性別分布をみると、世間の理解である「お年寄りや障害者、病気の方、母子家庭」という分布と大きく異なり、「二十代、三十代が相談者の中心、なかでも女性の相談者の割合が圧倒的に多い」とのこと。この疑問点を提示し、本書では、生活保護の窓口の運用、いわゆる「北九州市問題」、貧困状態に陥った若者と生活保護の関係、将来的な改善の方向と話を進める。

ケースワーカーとして生活保護の審査やフォローをした経験のある人でなければ書けない運用実務の現実は、「これって本当なの?」と言ってしまうような状態だ。その中でケースワーカー自身が心身を壊したり異動を希望するというのは理解できる。特に、若者を排除する方向になって行く窓口体制で若者と子どもたちにしわ寄せが行くということを、著者の現職である児童相談所の立場から書いている。その中の一つの悲しいエピソードがあとがきに書かれている。

生活保護は本来「より多くの利用者に、質の高い自立を提供すること」である。その思想は少し前に読んだ湯浅誠氏の「反貧困」の主張とも共通する。著者も湯浅氏も同じ問題に違う立場から取り組む中で解決方法はどの方向にあるかを探り当てているのだろう。若者が貧困から生活保護を受けざるを得ない(しかも、生活保護で解決はできない)ことをインタビューにより伝えようとしている。

著者は自立のための手段としての「プチ生活保護」(入りやすく、出やすい支援)体制の構築を提唱する。「プチ生活保護のススメ―我が家にも公的資金を! 短期間・不足分のみの受給もOK!」という本を監修した意図を「生活保護が誰でも気軽に利用できるサービスになってほしい」からと説明する。
極めてざっくりした計算でも自立を支援できるならトータルでのコスト(税金)は節約できるのだ。

一つ課題があるとすれば、若者や子供たちは「プチ生活保護」で救うのとは別に国民年金(月額六万円と少し)のみの支給しか受けられないお年寄りに対しては生涯続く経済的なサポートの仕組みを用意しなければならないのではないか、と言うことだ。だが、そちらの方にばかり気を取られていては、若者と子どもたちを生活保護で救うことはできないだろう。

その体制づくりのための原資として税金を使うことを納税者が納得できるのかどうか、そのための「説明責任」は行政側にあるのだが、実際にはボールは既に納税者側にあるような気がする。それよりなにより、適度な経済成長がなければ自立のための仕事がない、ということが目下の大問題か。


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