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2012/05/10

加納 朋子 「七人の敵がいる 」

面白いPTA小説という噂を聞いて気になっていた本がドラマ化を機会に文庫化されたので購入。 PTAの活動に本部や委員会、平日のイベントなどにちょろちょろ参加した自分の少ない経験からみても、現実に起こっているであろうエピソードがいっぱいで面白い、というか、ここまでわかっている小説家がいるとは、と感心した。

主人公の陽子は、フルタイムの会社員をしながら、PTA、自治会、スポーツ少年団、子供会での課題・問題を仕事のようにざくざく片づけていく。ここまでできたら気持ちがいいだろうなあ。実際にはここまで有能な人はほとんどいない。そういう点ではエンタテインメントである。

しかし、やや誇張された小説だからこそ、現状の問題点がよく描かれている部分がある。たとえば、PTAへの参加は任意であるのにそのことを説明せぬままに強制的入会を行っている現状や、男性保護者のPTAや学校への参加意識が非常に低い点、介護や育児が女性保護者に押し付けられ、それを社会全体として肯定していることなど、社会全体が目をつぶって現状維持で済ましていることを登場人物の口から明確に指摘させている。

たとえば、4人の親(夫の両親、自分の両親)の介護をすることで自分の時間のほとんどを使っている岬さんという女性が自治会関係者として登場する。彼女の義理の父親が死んだとき、陽子が香典を持って訪れる。

だが、岬さんは向き直った陽子に少し顔を近づけて、さらに言った。
「あのね、義父が亡くなった時に、思わず言ってしまったの。『ああ、これでやっと一人減った』って」
これは夫の助力がほとんどなく一人で4人を介護する、という極限的な状況に置かれた専業主婦という設定の女性である。実社会においても同様に介護で追い詰められている女性は多いだろう。

親の介護で離婚騒動にまで及んだ上司が感謝の気持ちをことあるごとに伝えていればあそこまでいかなかったろう、と陽子が夫に話すと:

「いやー、でもさ、何でって思うよなー。だって男だって毎日外で一生懸命くたくたになるまで働いてさ、それに対して奥さんは毎日『ありがとう』なんて言ってないだろ?いや、感謝してないとかじゃなくてさ、そういうのは、いちいち言わなくても伝わるものなんじゃないの?家族なんだしさー」

との返事が返ってきて陽子は深いため息をつく。

PTAについては小説後半に山場がある。今のほとんどのPTAが抱える多くの問題をこの作者はうまく表現していた。PTAの問題を表現しているなあ、と自分が感心した以下のような一節があった。

選挙権を行使しない人間に、政治について文句を言う資格がないように、出席しなかった会議で何が決定しようと、欠席者に文句を言う資格はない。それが道理である。あの会長なら鼻で笑って沿いう言うだろうし、それは間違ってはいない。正論そのものである。

だが正論というものには柔軟性がない。正論はきっちりとして正方形である。そして正論は白黒の市松模様をしている。それを、形が定まらず、何色ともつかない色をした「現実」に無理やり当てはめるのは、やはり無茶なのだ。

この本は男性保護者にはぜひ読んでもらいたいし、なによりもPTAマンセーな人には読んでもらいたい。現実のPTAはここまでドラマチックなすごい会長もいないし、問題教師も、陽子のような頼りになる会員もいない。でも、現実で抱えている問題点は同じだ。


3 件のコメント:

  1. はじめまして。

    今年度柏ヶ谷小学校でPTA役員をしているものです。

    PTAの活動に疑問を抱きつつ、日々を送っております。
    入退会の周知も提案してみましたが、なかなか現実は難しいですね。
    様々な要素が入り組んでいると痛感しました。

    貴ブログ、とても勉強になります。
    ありがとうございます。

    私のブログで活動の状況と日々疑問に思うことを挙げています。URL載せますので暇な時にでも見て頂ければ、と思います。
    http://blog.goo.ne.jp/nozakichi50

    多々感情入ってしまって読みにくいかとは思いますが、PTAにはこういう人もいるんだなーと思っていただければ幸いです。

    追伸
    本部の方も大変そうですね・・・。ついつい本部に向けて愚痴を言ってしまうのですが(苦笑)。
    中学校もPTA、スリム化していないようですね。
    道のりが長くて愕然としました。

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  2. コメントありがとうございます。
    ブログ拝見しました。
    自分も本部に参加する前に1年間成人教育委員会に参加した経験があります。

    各委員会は本部とは別の大変さがありますね。
    本部はどちらかというと「お役所としての学校」とのおつきあいにエネルギーを消耗します。委員会活動は保護者とのやりとり(参加者集めとか)が大変。

    今住んでいる海老名市では「家庭教育学級が非常にうまくいっている」とかで教育委員会の嘱託の人がいろいろお世話してくれました。が、そもそも、これに参加できる人数は40人程度。これって本当に役に立っているんだろうか、なんて少し疑問に思っていたものです。

    大和市だと入会届のようなものがあると聞きましたが、実情はどうなのか興味があったりします。

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  3. お疲れ様です。

    そうですね・・・。

    家庭教育学級はちょっとよく方向性が分からないのですが・・・
    国際に関していえば「そんなに集まらなくてもいい」そうで、
    「でも外国人家庭への理解を深めたい」と・・・。
    集まらなくてもいいものを開催するのに意味があるんでしょうか(汗)。
    それなりに予算は組まれるのに・・・。

    参加人数MAX40人というのも・・・
    ごく一部ですよね。
    しかも顔見知りや義理立ての人も多い。
    来る人っていつも決まってますよね。
    広く役に立つのか私も疑問です。

    あってもいいとは思いますが、やり方次第でもっとよくなるような。

    大和市のことは初耳です。
    そうですか・・・。
    興味深いです。ありがとうございました。

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