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2012/07/12

野口 祐子 「デジタル時代の著作権」

今の話だけではなく、さかのぼったところからの経緯や政治的な背景、国際的な枠組みやアメリカとの関係など、幅広く、しかも、感情的ではない記述なので、読んでいて楽しい。 たとえば、著作権の保護期間の延長については、当初、映画業界の圧力(?)で映画のみについて延長されている。このあたりの経緯も非常にわかりやすくまとめられている。
このとき、延長を正当化する理由として、映画業界はこのように言ったのです。たいていの著作物は、保護期間は著者の死後五〇年ですから、実際には、五〇年に著者が生きている数年から数十年が加算されているのに対して、映画は公表から五〇年なので、他の著作物よりも短くて不公平だ。だから、公平を保つためには、七〇年にすることが必要なのだ、と。
そうだとすると、映画以外の著作l物については、保護期間を延長する必然性はないわけです。ところが、これらの経緯を忘れたのか、その後、映画以外の著作物についても、欧米の水準に合わせて、保護期間を著作者の死後五〇年から七〇年に延長してほしい、という要望が権利者団体から出されるに至り、二〇〇七年度の文化庁の審議会で、著作権期間を延長するかどうかを検討する委員会ができました。
このようにまとめてくれると、作家先生がどんなにもっともらしいことを言っていても「なんだそりゃ」という話になるのである。

このような話だけではなく、アメリカにおいてハリウッドの主張が通りやすい理由、今、ハリウッドやアメリカはどんな手をつかって自分たちの利益を守ろうとしているのか、などの話や、科学データについて日本が立ち遅れている現状の問題点、クリエイティブ・コモンズの内容、から、ウィニー事件のような技術的な話までカバーされている。それに加えて、2010年に書かれているので新しい状況に対応した説明があるのがありがたい。

アメリカのコンテンツ業界が自衛のために暗号化技術を破る技術者を徹底して排除していった結果、それらの技術者はコンテンツのDRMの研究から離れてしまい、「コンテンツのDRM技術が破られたことを面白おかしく話していても、その分野に参入して協力してあげようという人は少ない、むしろ、ハリウッドは自業自得だ、という目で見ている人もたくさんいる」という技術者の反応はもっともだな、とこの本を読むと思う。ハリウッドをねらっているクラッカーが多いのではなく、優れた技術者がDRM開発に背を向けてしまった、ということなのか。

違法コンテンツのダウンロードに対する刑罰が法制化される、という問題を、この著作権法という大きな枠組みで考えたとき、法制化に反対するだけではなく、国際的な枠組みの改善と、個々のコンテンツのライセンス標準化などのツールを使って、よりより社会に向けて変化を自分たちで起こしていかなければならないのだ、と思う。

一つわかったことは、アメリカ(ハリウッド)は、国際条約での締め付けをあきらめて、各国との貿易協定などにからめて著作権保護など都合のいい条件を相手国に飲ませている、ということ。ということから、TPPに参加した場合、日本により強力なDRM関連の法制化などを条件にする可能性もあるかもしれない。

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