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2008/11/07

ビョルン・ロンボルグ 「地球と一緒に頭も冷やせ!」 -- 温暖化問題を問い直す

2008年の洞爺湖サミット(福田総理大臣時代)に間に合うように訳出された一冊。急いで翻訳した効果があったかどうかは不明だが。

ロンボルグはアル・ゴアの「不都合な真実」をはじめとした温暖化防止至上主義のあいまいな部分や誇張を明確にして、物事の優先順位を冷静に考えることを提案している。

冒頭にはホッキョクグマの話が取り上げられている。温暖化のせいでホッキョクグマが溺れて死ぬエピソードが一過性のもので、実は全体としては増えている。また、狩猟により年に四九頭が射殺されているのをやめることで救うこともできる、という説明をしつつ、この議論の構図が温暖化の議論に共通していることをロンボルグは示唆している。

管理人が個人的に最も気になっていたのは、温暖化している(これ自体はロンボルグも否定はしていない) ことでマラリアなどの伝染病が日本でも流行るのではないか、ということだった。これについてもかなりのページを割いて検討されている。それによると、

  • マラリアが蚊の中で成長するには16度以上であり、かつ、40度以下(蚊が死なない範囲)でなければならない。そのため、温暖化により16度以下に下がらない地域が増えるとマラリアのリスクが増すことになる。
  • 50年から100年前には、ヨーロッパやアメリカではマラリアは広く伝染していた
  • 温暖化にもかかわらずこの100年ぐらいの間にマラリアは上記の地域ではほぼ絶滅した。
  • 京都議定書にアメリカとオーストラリアが参加して順守したとしてもリスクは80年で0.2%減るだけ
  • 年間30億ドルかければ2015年には半減させることできると予想されている
この本を通して万事がこの調子。つまり、
京都議定書をきっちり守るには膨大な費用がかかるが、それだけ費用をかけても今ある心配事は解消しない。それに比べて同じ費用をうまく配分することでもっと幸せな未来を手に入れる可能性がある。そういった観点で何を先にやるべきかという優先順位を検討するべきではないのか?ということがロンボルグの一貫した主張。

温暖化防止論で主張されている主要な観点を統計や論文によって検証し、どこまでが誇張で実際の予想ではどの程度悪化するのか、といったことが細かく提示されている。この本の良いところは参考文献が示されているので読者も確認することができ、この本を出発点にして自分なりに論証することが可能な点だ、と思う。

参考文献リストはソフトバンククリエイティブのウェブサイトからダウンロード可能。

この本を読んだ後で調べると、国立環境研究所 地球環境研究センター のウェブサイトのQ&Aなど研究機関はアル・ゴアほど極端なことは言っていないことに気がつく。「温暖化防止熱」を一旦リセットして冷静になる効果がある本。

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