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2011/05/14

クルーグマン 「良い経済学 悪い経済学」

「国際競争力が失われたせいで国内の経済がおかしくなっている」という間違った考えに基づいて経済政策を決めてしまうことを著者は懸念しており、本の裏のテーマを経済学風なトンデモ議論を見破る程度の基礎力を鍛えることに置いているようだ。

クルーグマンの主張は、経済学では必ず成立する命題や等式があり、これを理解しない議論は意味がない、ということ。この立場から、この時期(10年以上前)アメリカの政策策定に影響した「国際競争力」こそが国内経済の活性化に重要だという考え方を論破してみせている。

日本では「有名ブロガー」が、経済学的にはやや不思議な説を広めており、素人読者を誤解させている、という現象が発生している。経済学が日本よりも常識として受け入れられている、と言われたアメリカでもレベルの違いはあってもおなじようなことがあるようだ。


アメリカで広く読まれた通俗書にはリカードの比較優位という概念がでてこなかったり、明らかに矛盾したりしていた。また、 [ 貯蓄 - 投資 = 輸出 - 輸入 ]という恒等式が無視された議論(開発途上国への投資が増えることによりその国の輸出が膨大に増え、アメリカが不利になる、など右辺と左辺が等式ではないような誤った議論)が知識人によってひろめられる、など、かなり偏った議論が洋の東西を問わずおこなわれていた。これは現在もあまり改善されていない。

クルーグマンがこの本でも書いているとおり、間違った概念が問題というよりも、それを極度に重要視した政策決定の方が問題。

経済学の丁寧な解説書ではなく、クルーグマンがこのようなテーマを取り上げた論文や講演を集めたものなので、経済学入門のような本ではないが、今の日本で行われている「国際競争力」や「TPP」議論と状況が似ているのが興味深い。


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