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2011/05/24

朝日新聞 2011.5.22 安井孝之 波聞風問 「自動車の国内生産「六重苦」超えるGENBAを」

朝日新聞の編集委員安井孝之が書いたコラム。

要するに:
企業は六重苦(従来からの五重苦に震災が加わった)で経営が大変だ、日本での製造が難しくなった、というが、現場レベルの能力が高い日本から海外に移して同じようにはいかないのではないか。現場の努力を結集して難局を乗り切れ。

という内容である。何を言っているのだろう、と思った。
「六重苦」や国内限界説は法人税率引き下げや環境対策の緩和などを政府に求める牽制球にもなっている。
確かに大震災後、国内生産の行方に厳しさは増した。(略)だが日本のものづくりを根本から見直そうという動きは、正しいのだろうか。
(略)
早期の復旧を果たした現場力は容易に海外移転できるものではない。大震災で膨らんだ「国内生産は限界」という危機感は、海外移転よりも国内の現場に磨きをかける努力で克服するほうが日本企業のDNAに合っている。安易な海外移転は長期的なグローバル競争力を落とす恐れもある。
日本でしか経営が成り立たたない朝日新聞社とは違い、自動車などは輸出でかせぐ比率が大きくなっているはずだ。日本での製造を行っているのは国内市場にある程度の大きさがあり、部品供給元などのインフラがあったからなのでは。長期的には今の経済政策はこういった部品メーカーがやっていけないような為替や税制になっていたりしないか。

確かに、日本国内の製造現場の現場力は海外移転は容易ではないだろう。しかし、ならば、日本国内でほとんど製造されなくなっている製品の製造現場がぐだぐだかと言えばそうとは限らないのではないか。それぞれの製造所で個々に現場力はあるはずだ。「日本の現場力」が唯一絶対の存在であるかのような言い方には違和感を感じた。日本の場合は為替や立地コスト、デフレのためにより一層のコスト管理が現場のノウハウとして蓄積されているということはあるに違いないが。

デフレの中でも新聞の購読料は下がっていない。だとすると新聞社社員や経営にとってはデフレ環境でも製造業ほど痛みはないのかもしれない。

デフレ不況で国内市場がより一層縮小に向かいつつある中で、世界のどこに工場を置くのが効率がいいのか、GENBA力がいかに強くてもそれだけでグローバルな競争に勝てるわけじゃないだろう。結局、ドル建てやユーロ建てで輸出しなければ食べていけないのだから。

六重苦のうち、大震災以外の五重苦(円高、環境対策、法人税率、労働法制、自由貿易協定交渉)は全て政策的な誤りの結果だ。これを是正することの優先順位が高いはずだし、より簡単だ。

この朝日新聞の文章では、この環境で生き残れない製造業はつぶれろ、と聞こえてしまうのだが。