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2011/08/05

大竹文雄 「競争と公平感―市場経済の本当のメリット 」

たいていの経済学者は「市場経済では格差はできるが全体としてみれば豊かになる。競争に敗れた人をセーフティネットで救い、再分配を行うのが国の役割。」と考えていて、経済学の標準的な教科書もそのようになっている。市場経済を導入した国の多くでは経済学者でなくてもそう考えているらしいのだが日本では一般的ではない。どちらかといえば「行き過ぎた市場主義で格差が拡大したから規制して行き過ぎを是正する」のが今は妥当な政策だと考えている人が多いだろう。

しかし、世界のほとんどの場所では市場経済とは付き合っていかねばならないのだから、どうつきあっていったらいいのかのヒントを読み取ってほしい、という考えで著者はこの本を書いたとまえがきにあった。

ピュー研究所が行った国際比較調査では、日本人は市場経済で格差ができることを拒否すると同時に、市場での敗者を国が救済することにも拒否感を示している、という結果が出ている。

単に競争や公平感というポイントにとどまらず、
この20年の「経済だだ下がり」の中で、日本人の勤勉さも低くなっていったという調査結果とその原因についての分析や、非正規社員の増加や最低賃金の引き上げを経済学の視点から考えるとどのように分析できるか、など、幅広くエッセー風にまとまっている。この本の解説で今の民主党の政策について感じていた自分の違和感が幾分説明できた。

官僚は職業政治家は、政策を考える前にこの本を読んでほしい。

なぜ市場経済の促進に役立ったはずの規制緩和に対して否定的な人が増えているのか、についての著者の説明は、往時の「小泉改革」を思い出してみると納得できるものだ。著者は一連の「構造改革」の顛末を次のように要約する。

結局、一番割を食ったのが市場主義である。市場主義が既存大企業を保護する大企業主義と同一視されてしまったため、反大企業主義が 反市場主義になってしまっているのではないだろうか。構造改革に携わった大企業関係者が、「官から民」への移行に伴って利益を受けていたとすれば、それは市場主義的政策と無関係どころか相反するものだ。誰でも競争に参入できるという公平性が担保されていることが、市場主義の一番重要な点だからだ。
「官から民へ」という掛け声のもとに、市場ではなく一部の財界に利権が移されたことが国民の反感を買い、反市場主義につながった。官僚から利権を奪うだけでは、問題の解決にならない。市場主義の否定は、利権の奪い合いをもたらすだけである。反市場主義によって私たちが失うものは大きい。
この他に、ニューロエコノミクスの紹介など最近の研究を紹介してくれているところもある。「双極割引」がここで詳しく書かれていて、なんとか理解できるようになった。