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2011/08/13

鈴木亘 「年金は本当にもらえるのか?」

年金で損をしない方法を書いている本ではない。

年金制度がなぜこんなに複雑なのか、役所の言っていることのどこがごまかしなのか、などをQ&A方式で解説している。説明が非常にわかりやすいので、今の制度がどのように壊れているのかがよくわかった。

この本を読むと新聞が、さらっと流している以下のような記事を読んでもいろいろと考える。

www.asahi.com (2011年8月11日) 

厚生労働省は10日、年金特別会計の2010年度収支決算を発表した。いずれも時価ベースでサラリーマンらが加入する厚生年金では2682億円の赤字。一方、自営業者らの国民年金では2195億円の黒字となった。厚生年金の赤字は2年ぶり、国民年金の黒字は2年連続。
厚生年金は、09年度がリーマン・ショック後の株価回復で運用収入が8兆6000億円を超す大幅なプラスとなり、3年ぶりに黒字に転じた。しかし、10年度は東日本大震災による株価低迷などの影響で運用収入が3069億円のマイナスとなり、再び赤字となった。
一方、国民年金は10年度は保険料納付率が過去最低の59.3%となったことなどが影響し、歳入全体が4297億円減少。ただ、保険料納付率の低下に伴い、基礎年金給付のための繰入額を7553億円減らしたため、収支全体では黒字だった。  

本書によれば、国民年金は、昔は積立方式だったものを田中角栄時代などで大盤振る舞いをしてしまったために賦課方式に変わらざるを得なかった。その結果、国民年金は大赤字で、厚生年金や共済年金からお金を回してもらうような制度をでっち上げている。

読了前なら「国民年金が黒字でいいな、厚生年金は大丈夫か」と思ったかもしれないが、今は「国民年金が黒字で厚生年金が赤字というのは、そのまま受け取るわけにいかない話だし、納付率が低くなっているので給付のための繰り入れが減っているというのは、年金制度自体の崩壊が起こっていると言ってもいい状態(払っていない人がどんどん増えている、ということだから)。」となる。

また、
NHKニュース より

厚生労働省は「年金を安定的に給付するため、積立金の着実な運用や、保険料の納付率を向上させる取り組みを進め、財政を安定させたい」と話しています。
などという役所のコメントも、「着実な運用(笑)」という感想になってしまう。

実際、厚生労働省は年金見直しをしなくてもいい(自分たちのやっていることは正しい)という立場だから、このようなコメントを出しているのだろうが、想定している運用利率は4%以上だそうだ。 この想定をもとに今の年金の金額を決めて高齢者世代に払い出している。この部分にツッコミを入れない国会議員たちも情けないが、これを放置する役所の公務員たちや天下りしたOBたちも不誠実だと言えるだろう。


団塊の世代などが比較的豊かなのは、年金などの負担が少なく受け取りが多いので、生きているだけで得する世代だからでもある。自分は今の制度だとトントンで、1960年生まれより若いと払った分を受け取ることはできず、若ければ若いほど損になる。

日本ではよくある話ではあるが、役所は昔からの間違いをなんとかごまかすために素人を煙に巻く制度設計を行い、情報をできる限り隠している。国会議員たちはあまりよくわかっていないので、役人のいいなりになっているようだ。また、将来の子供たちに負担を先送りする分には大人は誰も文句は言わないので、そのような行為が積み重なっている。


著者のいうように世代で閉じた積立制度を基本にする(元に戻す)とともに、ほぼ定額が支給される部分については消費税によりまかない誰でも定額が受け取れるようにする(これにより年金事務所なども縮小でき天下りも減らせる)ような根本的な制度変更が緊急課題だろう。じっとしていると団塊の世代がどんどん年金を受け取るようになり、「お得」な人たちが増えていく。それに、日本の人口減少は始まったばかり。今、制度を変更すれば子供たちにつけを回すのを少なくできる。

本の付録には、厚生労働省の主張する夢のような運用利率を現実的に直した場合の受け取り額が掲載されている。これだけでも見た方がいいと思う。

今の役人たち(とくにエライ人たち)はもらい逃げできるだろうけど、その子供たちはもう無理なんだろうな。どの政党もまともな年金制度を提案できていないので今(2011年8月現在)選挙があったらどうしたらいいのか。

 原子力も年金も同じだなと思うのは、つまるところ、役所は本当のことを言っていないし、これをチェックする議員たちも機能していない、というところ。チェックしようとする議員はいたけれど少数ではとにかく無理だろう。

黙って年金を巻き上げられ、損を押し付けられる若い(1960年生まれ以降の)サラリーマンは読むべき。