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2011/09/14

内田樹 「街場のメディア論」

TV、書籍、クレイマー化したマスコミなどなど、楽しい話題が多い本だった。

自分がこの本で学生が読むべきだと思うところは、最初に出てくるキャリア教育の話。

適性がある仕事を探す、という考えがそもそもボタンの掛け違いであり、他人から要請される仕事をすることにより、能力が向上する、という順番なのだ、という。

「働くというのは「傍」を「楽」にすること」なんていう話をちょっと連想してしまうような内容だけど、正しいのではないかと思う。

たとえば、細かく調査できればだが、役に立たないオープンソースなソフトウェアを量産している人の設計者的な能力が最終的に高くならないなんていうことがわかったりするかも。

ただし、現実はここまで単純なものではなく、「自分のために仕事をする人」が会社の中で高評価を得ることもままある。一方で、他人の要請で仕事を受けてくれる人に対して同僚の評価は上がるが組織の中で評価が上がるのかというと、必ずしもそうでもない。上司がそんなことをわかってないなんてことはしょっちゅうあるだろう。
だから、評価されるかどうかというよりも、自分の能力を高めるためには必要とされる状況にいること、その状況になったら仕事をやってみることがポイントだ、ということか。

著者の主張だといわゆる「キャリア教育」は役に立たないってことになるのでメジャーな主張にはなりにくいだろうが、キャリア教育が成功していない(若者の労働意欲が目覚ましく伸びたという話も聞かない)ので、実際はこう思っている人はおおいのかも。

「グローバル・コンペティションの時代を生き抜くために、自らのコア・コンピタンスを高めよ。」という「自分探し」方向の教育はこの不況下で実のある話にならないだろう。しばらくやめておいたらいいと思うのだが。