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2011/09/15

野村 総一郎 「精神科にできること」

2002年に書かれた本なので研究の最新成果は含まれていない可能性があるが、統合失調症から心身症の解説と治療、医療の状況が素人向けにわかりやすく書かれている。

以前に読んだ本の知識でうろ覚えだったことで、今回、新しく知ったことがいくつかある。

一つは、精神科の医療が進歩しているんだ、ということ。たとえば、統合失調症はこの10年ぐらいで本当の原因にせまれるかもしれないという研究が進んでいるらしい。治療の方法論が進歩したのもこの20年ぐらいだそうだ。

「心療内科」は日本しかない。これは元来は心身症の治療を目的とした科だったが、精神科医の「隠れ蓑」的に使っている場合がある。これは精神科にかかりやすくはなるが、心身症の治療で必要な内科知識がない医師に当たるかもしれない、というリスクがある。
心療内科の中の人が、精神科系か内科系かの簡単な見分け方として「心療内科・内科」とあったら内科系、だそうだ。

また、ウツは、回復後1年ぐらいは薬を飲んだ方が再発が抑えられ、場合によっては長期に薬を使ったほうがいい場合もあるらしい。以前いた職場では復帰してきた人が再発したことがあったが、もしかすると医師が薬を処方しなかったのかもしれない。医師が最新の研究成果をしらないとこういう対応が難しい、ということはありそうだ。

やっぱりと思ったこともある。
日本の医療制度での価格決定のやり方と病院が行いたいと考える治療の方向性が合わない、という問題は精神科病院や総合病院に集中している。ここでは人手をかける医療を行うと採算割れになる、という。精神科クリニックは患者数の分だけの支払いがあるので商売としても成り立つらしい。病院に医師がおらずクリニックが繁盛するという状況は好ましいとは言えない。入院が必要でも空いているベッドがないわけである。

体制的な課題は、この他にも、救急精神科の充実、医師の教育研修支援、など。


自律神経失調症については、本来これは診断がついたという状態ではなく、よくわからないが一応名前を付けて患者に説明する程度のものであり、うつなど他の症状であることが多い、とのこと。


著者によれば、自律神経失調症の4分の1程度はうつ病の疑いのあるというデータもあるそうだ。

入門的な本としては良書。