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2010/07/18

服部 正也 「ルワンダ中央銀行総裁日記」

山形浩生がびじすたニュースの毎月の連載書評で推薦していた本。山形が海外支援の仕事をしていることから、「こういう本はすぐ絶版になるからすぐに買うように」と強く勧めていた。

著者が日本銀行からルワンダ中央銀行の総裁として赴任し、ほぼ一から中央銀行を立ち上げると共にルワンダの経済を計画的に立ち上げようと作業する中で経験したことが時間の経過に従って書かれている。

最近ではルワンダは、「ホテル・ルワンダ」などで取り上げられ、日本の報道では二つの部族の構想により荒廃した国、というイメージが先行している。これについて著者が後年、報道や大国の介入の可能性を批判的に検証した小論を付けたものが新書化された。

ルワンダについては、また、伊東乾が日経ビジネスオンラインにて「ルワンダ大虐殺:本当に起きたことは何なのか(CSR解体新書43)」で書いていた。これを読んでみても新聞TVの短いニュースとは違った事情を説明している。

外国人を雇って行政をやっと運営しているような発展途上国の小規模な経済を、中央銀行を組織として作るところから、次の何カ月かに外国に支払う資金(外貨)の手当てをしたり、農作物を販売しやすくなる仕掛けや、田舎へ走らせるバスを日本から輸入したり、と、一つの国のことながら、中小企業の社長のような感じで立ち回っている。コーヒーに適した農地であるが余剰傾向のあるコーヒーを作っても経済は立ちいかないだろう、と考えて作付けを勧めないところなど、現場に即した政策を取ろうとがんばっている。

また、既得権を持って比較的裕福な暮らしをしている外国人に課税を強化するなど、自国民が運営していく前提で短期的にはちょっと強引な政策も取り入れてみたり。外資系銀行との交渉の場面などはなかなか面白い。ここで、バンカメの役員が「自分の国の中央銀行もあなたのように民間銀行のことをかんがえてくれたら。。」という趣旨の発言をするなどというのも、現状で考えると面白い。

今の日本でこれをやったら自分の権限を超えていると言われそうだ。ルワンダの国自体がまだ完全な形をなしていない状態で、規則もゆるやかだったからできたこととも言える。


今(2010年)、日本銀行を見ていると既定路線を崩さず運営して行くことが正しいという態度の政策決定をしているように見える。今の日本銀行職員をこのルワンダにつれて行ったら何が起こるんだろう、とちょっと意地悪な感想をもった。

著者は、自分は中央銀行総裁だからいろんな人が寄ってくるのだ、とそこまで見切った上で周囲との付き合いをしている。任期を終えて去るときに周囲の人から惜しまれ、また、一緒に働いた外国人職員たちとも家族ぐるみの付き合いができているなど、著者ばかりでなく家族の努力も相当にあったのだろう。

ビジネス書として読んでも、非常に面白い本だと思う。


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