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2008/07/27

D.A.ノーマン「パソコンを隠せ、アナログ発想でいこう」

D.A.ノーマンはヒューマンインタフェース設計に関する著書が何冊かあるこの道の大家。

この著書は、コンピュータやコンピュータ上での作業を実質的にサポートするアプリケーション(この呼び名もひどいものだと著者は言う)ソフトウェアが、このように複雑になって使いにくいのはなぜかを考察し、人間中心、活動中心の製品を考えようと提唱している。

コンピュータを内蔵するが汎用ではない「情報アプライアンス」への移行することにより、現在のソフトウェア・ハードウェア技術を応用した人間中心の環境を構築できる、というのが中心となる主張。

人間中心の製品開発とは何だろうか。答えは簡単。それは、テクノロジーからではなく、ユーザー自身とそのニーズから始める製品開発のプロセスである。その目標はユーザーに仕えるテクノロジーである。そこではテクノロジーはタスクに適合し、それが複雑だとしたら、道具が複雑だからではなくタスクが複雑だからである。その中核として、人間中心の製品開発には、人間について、そして人々が達成したいと思うタスクについて、理解している開発者が必要である。それはユーザーを観察し一緒に仕事をすることから始め、できれば一ページを超えない簡単な操作マニュアルを書くことを意味する。
著者はアップル社で勤務していた時代に「活動ベースのコンピューティング」(Activity Based Computing)というコンセプトを導入しようとしてうまくいっていないことでもわかるように、この考え方は多くのコンピュータ系会社では受け入れてもらえない(と著者は考えている)。

われわれが情報アプライアンスを手にするようになるのは疑いようもない。それはすでに存在しているし、その数も増え続けている。唯一の問は、いつどのようにであって、そうなるかどうかではない。この本では、どのように、というシナリオを示している。いつ、については、ビジネスと産業を推進する複数の未知要因の歩調がどれほど揃うかに依存している。
本を通して裏にあるのは、コンピューターのテクノロジー中心ビジネスから脱却しようとしない企業へのイライラであり、アプライアンスのための環境が整備されていかないことに対する不満。

うまくいく情報アプライアンスのファミリーは、それらを使用する人々と行うタスクを中心に築かれる。情報産業の世界の製品は、今はびこっているテクノロジー中心設計のもとであまりにも長い間苦労してきた。今こそ変化の時であり、人間中心設計哲学の時である。人は機械ではない。人は機械とはまったく異なる要求を持っている。
今日は人がテクノロジーのニーズに合わせなければならない。今こそ、人々のニーズにテクノロジーを合わせる時が来た。
ただし、ここでアプライアンスと著者が呼ぶのはたとえば携帯型電子辞書のような独立したものではなく、相互に共通のプロトコルで情報交換をしつつコンピュータの複雑さを排した道具、である。その意味では現状のガジェットのレベルを脱し切れていない「アプライアンス」とも違うような気がする。

翻訳のレベルはそこそこ。ところどころこなれていない日本語があるので気になるが全体を通読するレベルでは問題ない。