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2009/07/10

川端裕人 「エピデミック」

ある病原菌が地方都市で広がり、その対策のためにフィールド疫学者が活躍する。

何がその疫病の「元栓」なのかを探る「疫学探偵」的な手法、そのための専用ソフトウェアなどの小道具も新鮮な情報だ。出版は2007年10月のことで、SARSや鳥インフルエンザは発生していたが、2009年の新型インフルエンザA(H1N1)よりは前のこと。

インフルエンザA(H1N1)型の新聞取材もこういう実務の話も報道してくれると読んでいて興味が湧くし、ブラックボックス化されてしまいがちな防疫や感染対策に理解が深くなると思う。

疫学的手法で原因を追い詰めていくストーリーの一方で、隣接地域の住民が「自主組織」で町の境界を封鎖して感染が起こっている町からの流入者を追い返すなどの場面もあり、A(H1N1)型のときの地域的なバッシングなどを想起させる。

なかなか原因らしきものに迫れず試行錯誤を繰り返す中で、麻疹に似ているのでは、とふと口にした言葉が報道関係者に広がって「空気感染」におびえたりもする。

この小説のようなチームが運よく原因を突き止めるとは限らない。インフルエンザA(H1N1)なんてウィルスが判明してもワクチンはまだなく、一方でタミフル耐性が疑われるウィルスが確認されたりしている。そもそもインフルエンザワクチンが効くかどうかも今一つ不確かだ。

作品の中で子どもたちのコミューン風な不思議な集団が出てくるところは少し違和感を感じるが、小説としても科学読み物としてもミステリーとしても面白かった。

川端裕人氏は、最初に知ったのがPTA関連の著作や発言だったので、小説家としての川端氏の作品を読むのはこれが初。少し長いけれど最後まで良いペースで読み切った。


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